判例紹介(懲戒処分)6.職務懈怠(頻繁な遅刻・早退) -東京プレス工業事件-
(横浜地裁昭和57年2月25日判決)
事実の概要
一 申請人労働者Xは、自動車部品製造業である被申請人会社Yの従業員であった。X(大学院修了)は、将来のスタッフ候補者として採用され、おもに現場に配属されるとともに組合役員として活躍していた(ただし組合内少数派)。本件事案発生時(昭和52年3月8日)の約半年前に、Xはスタッフ部門である品質管理部に配転された。配転を不当労働行為とするXと業務上の必要性を主張するYとの間にいくつかのやりとりがあった。
二 Xは、Yより文書による懲戒解雇(=主位的解雇)の意思表示を受け、あわせて通常解雇(=予備的解雇)の通知をも受けた。
三 Y主張の解雇理由は、Xが無断欠勤・遅刻を常習的に繰り返し(=職務懈怠)、ために職場秩序を紊乱せしめたことにあった。具体的には、(1)Xは解雇前の半年間(昭和51年9月~52年2月)に24回の遅刻(計65.7時間)と14回の欠勤を繰り返し、完全就労日数は69%強でしかなかった。(2)Yは、イ.この半年間以前の昭和51年3月(入社約2年後)頃から、数次の長時間遅刻をなし、上司より注意を受け、ロ.その後の期間(昭和51年9月6日~10月13日)に長時間の遅刻を10回行い、ために始末書を取られ譴責処分を受けたが、その直後2度遅刻を繰り返し人事課長より再度注意を受けた。しかし、ハ.上司・同僚の注意にもかかわらず、同年11月12月にも十数回の欠勤・遅刻をなし、さらに、ニ.昭和52年1月17,18日には大幅の遅刻と19日から3日間の無断欠勤と勤務態度は改善されず、XはYより、「就労の意思」の有無の文書確認を求められ、かつ訓戒処分を受けたが、ホ.同年2月に入っても無断欠勤・遅刻が続いた。
四 なお、(ⅰ)就業規則と労働協約には、「正当な理由がなく遅刻・早退または欠勤が重なるとき」という懲戒解雇条項があった。(ⅱ)また、就業規則には、懲戒処分後の「改善の見込みなき」場合も懲戒解雇事由に該る旨定めていた。
五 Yは、三(1)のXの行為は、四(ⅰ)の各規定「無届の欠勤・遅刻条項」に該当し、三(2)イ.ロ.ハ.ニ.ホ.の行為は四(ⅱ)の「処分後の改善なき条項」に該当するとして、協約31条6号の「懲戒によるとき」の解雇条項に則って、Xに懲戒解雇の意思表示を行った。なお、通常解雇に関するY主張は省略。
六 Xを懲戒解雇するさい、Yは就業規則および協約に定められている、いわゆる「解雇予告除外認定条項」の手続きを経ていなかった。
七 協約には、解雇に関し労使双方の代表による中央労使協議会の「協議」による旨の条項があったが、本件解雇にあたっては協議会は開催されず、組合三役への伝達および執行委員会での協議で替えられた。
八 Xは、(ⅰ)Y主張三(1)のごとく懲戒解雇に該当する事実はなく、(ⅱ)三(2)イ.ロ.の無断欠勤・遅刻は不当労働行為等の嫌がらせによるものである、三(2)ハ.ニ.ホ.の欠勤・遅刻は、病気および雪害による交通事故という「正当事由」があった、(ⅲ)Yは、六、七により手続違反の懲戒解雇を行い、かつ(ⅳ)他の被処分者と比べて均衡が欠けていること等から懲戒権濫用として本件懲戒解雇の無効を主張し、地位保全等の仮処分申請をした。
判 旨
申請却下。
一 「正当な理由なく遅刻・早退または欠勤が重なったとき」の条項該当性について、(1)Y主張の事実を認定。(2)「事前の届出のない遅刻、欠勤は、Yの業務、職場秩序に混乱を生じしめるものである」ので、Xには右条項に該当する懲戒事由があった。(3)事故または病気の事由が存在したとしても、事前の届け出のない遅刻欠勤は、それ自体が「正当な理由のない遅刻、欠勤」に当たるのでXの主張は理由がない。
二 不当労働行為の事実はなく、「本件解雇の真の理由は、・・・Xの勤務不良およびそれに伴う職場秩序紊乱行為にあった。」
三 解雇予告除外認定の手続きについて、形式上瑕疵があったが、Yと組合三役の協議と協議内容が中央労使協議会の組合側構成員である執行委員会で討議され、異議も出なかったので、無効とは解しえない。
社会保険労務士 林田事務所(京都市)では、問題社員への対応、解雇トラブル回避と円満退職サポート、リストラ、就業規則見直しおよび労務トラブル予防などについて初回無料相談をお受けしています。
お問い合わせ